音の「資料化、保存、普及」を通じ、人々が持つ文化的多様性や相違に対する理解/向上の促進を目指している米国の名門レーベル〈スミソニアン・フォークウェイズ〉。今回同レーベルよりご紹介するのは、ジャズ/ブルース/フォーク歌手:バーバラ・デイン(1927-2024)が、スミソニアン・フォークウェイズの前身:フォークウェイズ・レコーズより1964年にリリースしたアルバム『ブルースを歌う』です。2024年10月20日、97歳で素晴らしくも波乱万丈の人生に幕を下ろした彼女。今回は追悼の意を込め、こちらの作品をご紹介させていただきます。 合衆国ミシガン州デトロイト出身の歌手/レコード・プロデューサー/政治活動家のバーバラ・デイン。人種差別に対し、幼少より疑念を抱いてきた彼女は、高校卒業を機に反人種差別運動/経済的正義を求めるデモに参加するようになりました。そして1947年からは、プロテスト・ソングのパイオニアたち:ピート・シーガー、ウディ・ガスリー、アラン・ローマックス、シス・カニンガムらが〈フォーク・ソングの演奏によって社会変革を起こす〉という主旨のもとに設立した非営利団体〈ピープルズ・ソングズ〉へと加入。バーバラは、同団体が主催するフーテナニー(観客参加型のコンサート)などで弾き語りを行うようになりました。しかしカンパを中心に資金繰りを行っていた同団体。やがては財政面に陰りが出始め、バーバラも他の仲間たち同様、他からの収入源を確保せざるを得ない状況へと追い込まれていきました。そこでバーバラは歌手として仕事を得ようと奔走。数多の落胆を重ねつつも、サンフランシスコに拠点を移した1949年、テレビのタレント・コンテスト番組で賞を獲得したことを皮切りに、歌手としての知名度を着々と上げていくこととなりました。これと同時期、バーバラはベッシー・スミスやマ・レイニーといった戦前クラシック・ブルースのディーヴァたちに心酔。初期ブルース/ジャズというスタイルを吸収した彼女は、ジョージ・ルイスやキッド・オリーなど、ニューオーリンズ出身の演奏家たちとも次第に懇意になっていきます。 そんな中、バーバラは1957年にブルース・アルバム“Trouble in Mind”をリリース。〈20カラットのダイヤモンド・ヴォイス〉〈ステレオ時代のベッシー・スミス〉と評されたその迫力ある歌声は、白人・黒人という人種の垣根を超えた北米の人々を魅了し、以降〈戦前クラシック・ブルースのリヴァイヴァリスト〉として注目を集めていきました。その後はルイ・アームストロングなどのジャズマンや伝説の社会派スタンダップ・コメディアン:レニー・ブルースらとも共演。その一方で、60年代の公民権運動・反戦運動の高まりと共に、プロテスト・フォーク・シンガーとしてのアイデンティティも確立していき、66年には革命後のキューバにおいて公演を行った最初の合衆国出身ミュージシャンとなっています。 本作は彼女がブルース歌手として録音した1964年の作品。伝統曲、オリジナル曲、そしてタンパ・レッド、ウィリー・ディクソン、マ・レイニーら戦前ブルースの巨匠たちの名曲の数々を、ギターの弾き語りによって歌い上げた一枚です。時は1964年。ジャズ/ブルース/フォークを独自の感性で消化した、1960年代バーバラ特有の魅力が濃縮された作品であるといっても良いでしょう。もちろん、あのボニー・レイットも憧れたという、彼女のギターの腕前も存分に楽しめます。当時のライナーノーツ(英文)についても、無料ダウンロード形式(PDF)で読むことが可能となっておりますので、バーバラの歌声/人柄の魅力や、今世に残した功績の数々を忘れないためにも、フィジカルでお手元に置いていただけるならば幸いです。
●日本語解説/帯付き
トラックリスト 1. You Don't Know Me 2. I Just Want To Make Love To You 3. Come Back,Baby 4. Stranger's Blues 5. Victim to the Blues 6. 'Way Behind the Sun 7. Special Delivery Blues 8. It Hurts Me Too 9. Come On In (There Ain't Nobody Here But Me) 10. Hard Oh Lord 11. Working People's Blues 12. Dink's Blues (Dink's Song)