フランス出身のクレズマー音楽家/木管・金管楽器奏者で、超実力派ジプシー・バンド〈ブラッチ〉(1972〜2015)のクラリネット奏者としてもお馴染みのナノ・ペイレ。そしてフレンチ・ジャズ/クレズマーをスペシャリティとするクラシック出身のピアニスト:デニ・クニョ(1953- )。クレズマー音楽とハシディズム音楽(18世紀後半、東ヨーロッパから始まった正統派ユダヤ教派の音楽)をこよなく愛する両名は、1983年にデュオを結成。以降、伝統的なユダヤ音楽のテイストを基盤に、室内楽的アプローチやスラップスティックなユーモア、凶暴性とエレガンスが同居する破壊力抜群の即興演奏なども交えつつ、クラリネット+ピアノというシンプルな編成によって、彼ら独自の魅力的なサウンドをクリエイトしてきました。 1989年にはアルバム“Musique des Klezmorim et de leurs descendants(クレズモリムとその子孫たちの音楽)”をリリース。こちらの作品では中央および東ヨーロッパの伝統的なユダヤ音楽にフォーカスを当て、イディッシュの歌を室内楽風にアレンジ、アカデミックな雰囲気を漂わせる一方で、ジャズにも似た自由度の高いプレイを展開させました。 そして次作“Musique Klezmer (D'hier Et De Demain) (クレズマー音楽の過去と未来)”(1992年リリース)では、前作同様、室内楽的なエレガンスも保持しつつ、クラリネットによるスピード感溢れるプレイとマシンガンのようにメロディを叩き出し続ける狂気的かつテクニカルなピアノ演奏の組み合わせによって、ジプシー・ブラスが持つボードヴィル的/スラップスティックな感覚も再現させています。 3作目にあたる“L’amour des niguns(ニグンへの愛)”(2000年リリース)では、中央ヨーロッパのユダヤ音楽の伝統に則り、グループによって歌われる宗教的な歌/曲の形式である〈ニグン〉への想いが込められた一枚となりました。こちらではクラシック出身者であるクニョから漂う叙情性たっぷりのエレガンス、ジプシー音楽/伝統音楽という枠組みを軽々と超えたアヴァンギャルドともいうべき超暴力的即興プレイ、コミカルとクール/猥雑と洗練を目まぐるしく行き来するペイレの伸びやかなクラリネット演奏が渾然一体となり、なんとも言えない強力な魅力を放つ一枚へと完成されています。 今回ご紹介する本2枚組CD作品は、前述の3作から18曲を選りすぐりコンパイルしたもの。このヴォリュームでこのお値段、かつ彼らの多面的な魅力を的確に捉え、分かりやすく紹介しているというのが本作の大きな魅力であると言えます。クレズマー・ファンの方もそうでない方も、彼らの息のあったスーパー・プレイを是非、本作でお楽しみ下さい。
CD1 1. Medley (Improvisation, Odessa Bulgar, Firen di Mekhutonim areym) 2. Azoi tanzmen in Odessa 3. Yah ribon 4. Giora, mon amour 5. Papir iz dokh vais 6. Medley 7. Belleville-Drancy par Grenelle 8. Tire l’aiguille (Der rebe hot geheysn freylech zayn) 9. Happy Nigun
CD2 1. Improvisation autour d’une variation sur un thme 2. Tarras’Freilach 3. Hymnoprtrad 4. Tief in waldele 5. Boublichki 6. Der Alef-beyz (Oyfn Pripetschik) 7. Chassidic Dance et Berdishever Chossid 8. Zog nicht kein mol 9. Mir leben eybik
2024年10月13日発売 DUO PEYLET-CUNIOT / KLEZMER, NIGUNS AND CO