カントリーやハワイアンの演奏でもお馴染みの楽器〈ラップ・スティール・ギター〉、そしてコンソール・タイプのスティール・ギターにペダルとニー・レバーが備えつけられた〈ペダル・スティール・ギター〉。その音色は通常のスティール・ギター同様、人の声との類似性がうたわれる滑らかで制約のないグリッサンドと深いビブラート、豊かな倍音がその大きな特色となります。冒頭でお話しした通り、カントリーやハワイアンの演奏に用いられることで有名な同楽器ですが、意外なところではジャズ、さらにナイジェリア音楽〈ジュジュ〉などの演奏にも導入される場合があります。 合衆国東部/南部、主にナッシュビルとインディアナポリスを拠点とするアフリカ系アメリカ人ペンテコステ派の教派〈ハウス・オヴ・ゴッド〉。同教会では1930年代より、このペダル・スティール・ギターおよびラップ・スティール・ギターを〈神のしもべ〉としてゴスペル演奏に導入しはじめました。オルガンの代用として採用された同楽器演奏は瞬く間に大きな反響を呼び、ラップ・スティール/ペダル・スティールと共に演奏されるゴスペル・スタイルは〈セイクリッド・スティール〉とジャンル付けされ、一般に定着するようになりました。 今回はそんなセイクレッド・スティール界における6弦ラップ・スティール・ギターの名手:オーブリー・ゲントの作品をご紹介。彼の父親であるヘンリー・ネルソンは、ハウス・オヴ・ゴッド:キース・ドミニオン教会において数十年のキャリアを積んだスティール・ギター奏者でした。そんなヘンリーの背中を見て育ったオーブリーは、W. L. ネルソン司教指導の下、9歳より北米東部各地の礼拝、集会などで演奏。聞く人に感動を与える説教の力、豊かなビブラートを湛えたスウィンギーなプレイ・センス、そしてバリトンの効いたソウルフルな歌声を持ち味とする彼は、会衆たちより〈神から二重の祝福を受けた人物〉であると称賛されています。 今回ご紹介するオーブリー・ゲント&フレンズ名義の作品『キャント・ノーバディ・ドゥ・ミー・ライク・ジーザス』は、1996年にアーフリー・レコーズよりリリース。ヴォーカリスト:ロリ・ゲント、ターリシャ・バー、キーボーディスト:アンディ・ファージソン、ドラムズ:エドワード・ゲイリー・ウィリアムズと共に作り上げた本作は、‘Can't Nobody Do Me Like Jesus’、‘Walk With Me’、‘Amazing Grace’ほか、伝統的なゴスペル・チューン全10曲で構成されています。アーバン・ソウルとも言えるようなメロウで洗練されたモダン・アレンジ、ドライヴ感がありながら甘さや切なさも感じさせるスウィート・ソウルなオーブリーのギター・プレイは、キャンベル・ブラザーズの豪快プレイとはまた一味違う強い魅力を放ちます。ちなみに同作品は発売当時ヒットを記録。以降オーブリーは、ゴスペル/セイクリッド・スティールの魅力をより多くの人々に伝えるため、スイス、ドイツ、イタリア、フランス、スペインなどの欧州諸国も巡業しています。世界の人々を魅了したオーブリーのラップ・スティール演奏を是非お楽しみに!
●日本語解説/帯付き
トラックリスト 1. Just a Closer Walk With Thee 2. Can't Nobody Do Me Like Jesus 3. Amazing Grace 4. Am Thine Oh Lord 5. When the Saints Go Marching In 6. Sweet, Sweet Spirit 7. What He's Done for Me 8. Walk With Me 9. There Is a Fountain Filled With Blood 10. How Great Thou Art
2024年12月15日発売 AUBREY GHENT & FRIENDS / CAN'T NOBODY DO ME LIKE JESUS