アメリカ合衆国ケンタッキー州発祥のギター・ピッキング・スタイル〈トラヴィス・スタイル(またはケンタッキー・サムピッキング)〉は、親指でベース・ラインとリズムを刻みながら、同時に他の指で複雑なメロディを紡ぐという演奏技法。オルタネイト・ベース(交互に弾く低音)を用いたフィンガー・ピッキングと、シンコペーションを効かせた軽快なメロディが、その大きな魅力となります。同スタイルは、カントリー音楽のレジェンド:マール・トラヴィス(1917-83)が確立して以降、チェット・アトキンス、スコッティ・ムーア、ジェームス・バートン、ジェームス・テイラーら多くの名手にも受け継がれていきました。 今回ご紹介する、ケンタッキー州出身のエディ・ペニントン(1956- )は、トラヴィス・スタイルを継承する世界最高峰のフォーク・ギタリスト。圧倒的な技巧を誇る彼のサウンドは〈まるで1本のギターから4人編成のオーケストラの演奏が鳴り響いているようだ〉と評されています。その実力は、全米サムピッキング・コンテストでの連覇による殿堂入り、2001年には〈ナショナル・ヘリティッジ・フェロウシップ(日本の人間国宝に相当)の授与、アトランタ・オリンピックでの演奏など、数々の実績が証明しています。 そんな彼は音楽家系の出身。彼の祖先には、冤罪による絞首刑の直前に自身の棺桶の上でフィドルを弾いたという伝説の奏者がいたといいます。その血脈と伝統技術は、父親から彼、そして実力派ギタリストである彼の息子のエロンゾへと、世代を超えて受け継がれています。 彼の魅力はその驚異的なギター・テクニックに留まりません。〈葬儀ディレクター(葬儀屋)〉および〈郡検視官〉として長年勤めていた彼は、ライヴ・ステージにおいて、このユニークな職業体験から生まれる南部特有のブラックユーモアや皮肉、自虐を交えた軽妙な語りを披露し、観客を爆笑の渦に巻き込みます。このようにエンターテイナーとしての優れた才覚も持ち合わせているため、フォロワーが後を絶ちません。 今回ご紹介する『Walks the Strings and Even Sings』は、そんな彼の音楽的神髄が凝縮された名盤。1990年代の貴重な一発録り音源をまとめた本作では、マール・トラヴィスやチェット・アトキンスらの系譜を継ぐ彼の超絶技巧が、まさに余すことなく発揮されています。 ここでは、カントリー、ブルーグラス、ジャズといった様々なジャンルのスタンダード・ナンバーを、彼独自のピッキングで鮮やかにカヴァー。その天才的なギター捌きに最後まで耳が離せません。特に「Stealing Time」(��)の演奏は、〈他のギタリストがコピーしようとしても再現不可能〉と、批評家たちが大絶賛しています。 また、タイトルの原題〈Even Sings(歌ったりもする)〉にもある通り、インスト・ナンバーの合間に挟まれる、味わい深くチャーミングな歌声やユーモア溢れる語りも、アルバムの素晴らしいアクセントになっています。超絶技巧とユーモアが絶妙に溶け合うゴキゲンな一枚。マール・トラヴィス・ファンの方、チェット・アトキンス・ファンの方にもオススメしたい、ギター・ファン必聴の名盤です。
●日本語解説/帯付き
トラックリスト 1. Walking the Strings 2. Mose’s Blues 3. Wabash Cannonball 4. Information, Please 5. John’s Smoke Turns Blue 6. Home 7. Nine Pound Hammer 8. Pig Ankle Rag 9. Raindrops 10. Fertile Liza 11. Stealing Time 12. Sweet Georgia Brown 13. The Pig Got Up 14. Stone’s Rag 15. Bye, Bye Blues 16. So Round, So Firm 17. The Panic Is On 18. Bluebell 19. Duncan and Brady 20. Over the Rainbow
2026年10月25日発売 EDDIE PENNINGTON / WALKS THE STRINGS AND EVEN SINGS