ノースカロライナ州ディープ・ギャップの音楽一家、9人兄弟の一人として生を受けた伝説のギタリスト:ドック・ワトソン(1923-2012)は、ブルーグラス・ギター(フラット・ピッキング・ギター)の第一人者として有名です。そんな彼は生後間もなくして感染症に侵され、2歳になる前に失明。幼少期のドックは、クリスマス・プレゼントとして贈られたハーモニカを手始めに吹き始め、やがて7歳になると父親が与えてくれたハンドメイドのバンジョウ、その後ギターを弾き始めました。地元のロカビリー・バンドで細々と活動していた彼が初めて注目を浴びたのは、フォーク・リヴァイヴァル全盛期。1960年、クラレンス・アシュリーの伴奏者として都市部の大学を巡業していた時でした。そして1964年、41歳にして初めて公式にソロ・アルバムを発表し、一躍最高のカントリー・ギタリストという評価を得ています。彼のクロス・ピッキングを駆使した独自の早弾き奏法は、クラレンス・ホワイトやトニー・ライスをはじめとするブルーグラス・ギタリストたちにも多大な影響を与えました。そして国民芸術勲章、グラミー8回受賞という栄光にも輝き、今も語り継がれる伝説のプレイヤーとしてアメリカ音楽史上にその名を刻んでいます。 そして、テネシー州ブリストル出身のバンジョウ/ギター奏者:クラレンス・“トム”・アシュリー(本名:クラレンス・アール・マッカリー 1895-1967)は、祖父よりバンジョウを贈られたことをきっかけに、8歳より楽器の演奏を開始。主に母親、叔母、そして祖父が営む下宿に泊まっていた移動労働者(木こり)や鉄道員などから、伝統的なアパラチア民謡/バラッドを伝授され、その演奏技術を学んでいます。1911年よりアパラチア南部地域をまわるメディスン・ショウでのパフォーマンスを開始。1920年代後半にはソロ・アーティストとしてレコーディングも行いましたが、その時録音された‘The Coo Coo Bird’の音源は、アメリカン・ルーツ・ミュージックのバイブルとして知られる『アンソロジー・オヴ・アメリカン・フォーク・ミュージック』にも収められています。またソロ活動に並行し、ザ・カロライナ・ター・ヒールズ(1920年頃〜1932)をはじめとしたストリング・バンドのメンバーとしての名声も獲得。しかし大恐慌と共に客足が減少したため、1930年代後半からはトラック運送業を設立し、音楽活動はこれに並行して行なっていました。そして1960年フォーク・リバイバル・ブームの渦中、民俗音楽研究家:ラルフ・リンズラーによって〈再発見〉された後は、NYの音楽の殿堂:カーネギー・ホールやニューポート・フォーク・フェスティバルなど音楽イヴェントなどで演奏。音楽家として余生を過ごしています。 今回ご紹介する作品は、クラレンス・アシュリー、そしてドック・ワトソンをはじめとするアシュリーの仲間たちによるパフォーマンスを収めた1961年リリースの“Old Time Music at Clarence Ashley's”に、1990年代になるまで未発表のままだった20曲をプラスした決定版。ちなみにオリジナル作品である“Old Time Music at〜は、ドック・ワトソンの存在を世界に向けて紹介した記念すべき作品でもあり、フォーク・リヴァイヴァル・ブームにおける重要作品としても知られています。同梱のブックレットには多数の珍しい写真、プロデューサー:ラルフ・リンズラーによる詳細な解説も掲載。是非ご期待ください!