2025年9月14日発売新譜 《UNESCO Collection of Traditional Musicシリーズ第19弾》 まだまだ謎の多いクルド音楽をプロの演奏家たちによる巧みな演奏によって紹介
米国の名門レーベル:スミソニアン・フォークウェイズが所蔵する〈UNESCO Collection of Traditional Music〉は、世界70ヶ国以上で採集された民俗音楽のコレクション。シリーズ全127枚のアルバムから成りますが、アフリカ、アジア、オーストラリアおよびオセアニア、ヨーロッパ、北米、南米といったテーマの中でさらに細分化され、普段は耳にすることができない少数民族の歌声や、神秘的な器楽演奏などが数多収録されています。音源は1970年代から80年代にフィールド・レコーディングされたものが中心となりますが、いずれも資料価値が高い上に音質も大変に優れたものばかり。それらをより多くの人々にお楽しみいただくため、2024年5月より〈UNESCO Collection of Traditional Music〉のカタログから特に優れたものを厳選し、シリーズとして順次ご紹介させていただいております。第一弾『ピグミー〜アカ族の神秘の歌声』(サンビーニャ・インポート FLSI-31018)から始まった同シリーズ。今回その第19弾としてご紹介するのは『クルド音楽』です。 現在のトルコ、シリア、イラク、イラン、アルメニア一部の山岳地帯に暮らす、国家を持たない世界最大の民族:クルド人。この境遇からも分かるように、クルド音楽には宮廷音楽のようなものが存在せず、その多くは〈夜の集会(evbihrk)〉などをはじめとした人々の集まりの中で育まれ発展していきました。また、彼らの伝統音楽はペルシャ音楽と同じ系統に属しながらも、ペンタトニックコードの使用を基盤としています。そしてすべての音楽は〈昼の音楽〉と〈夜の音楽〉という2つの明確なカテゴリーに分けられており、昼の音楽は祝祭のための音楽、夜の音楽は静寂と内省のひとときを演出するための音楽であるとされています。歌曲については、クルドの英雄や歴史を語る叙事詩的な歌〈Lawik〉、失恋や別れをテーマにしたバラード〈Heyrans〉などが挙げられますが、これは音楽の物語性を重視するクルド人ならではの大きな特徴。この他、宗教音楽〈Lawje〉、結婚式や祝祭で踊られる活気あるダンス音楽〈Dlok/Narnk〉なども、彼らの音楽を代表するジャンルとして挙げられるでしょう。 今回ご紹介する作品では、そんなクルド人たちの伝統的な器楽演奏や歌を収録。いずれのトラックもプロの演奏家によるものである上、録音状態のコンディションも雑味がまったくなく非常に美しいものとなっています。冒頭を飾るのは〈不運な恋の物語〉が描き出された演奏時間23分越えの大曲「Naghma Jabali wa Binafsh」。物語が持つ尽きることのない予想外の展開の連続を、トルコの伝統民俗弦楽器サズ(バーラマ)の中でも最大のサイズを持つ12弦32フレットの楽器〈メイダン・サズ〉、そして中東、中央アジア諸国で中心に演奏されている長いネックを持つ弦楽器〈タンブール〉の情熱的な演奏が巧みに紡ぎ出していきますが、こちらは〈夜の音楽〉に分類されます。続いてはダブルリード型の木管楽器〈ズルナ〉と両面太鼓の演奏による「Mawal Wa Raqsa」。こちらは祝祭、結婚式、その他様々な機会に野外で演奏される〈昼間の音楽〉の一例であり、スコットランドのバグパイプ演奏にも似た、強烈な爆音チャルメラ・サウンドをたっぷりと堪能することができます。この他の楽曲では、ジャケット写真にもあしらわれている小型の葦笛〈ピック〉、羊皮またはウサギ皮で覆われた2つの小さな粘土製のケトル・ドラム〈トゥンバ/アク〉などの演奏も登場。まだあまり知られていない彼らの音楽文化を、テンポよく知ることができる一枚です。
トラックリスト 1. Naghma Jabali wa Binafsh/Mohammed Ali Te'djo, Said Hassan 2. Mawal wa Raqsa (For Two Zorna and Tabl)/Hamo Hassan Ra'sho, Mohammed Ahmed Ra'sho, Hussein Mohammed Ra'sho 3. Mawal wa Raqsa (For Two Pik, Tumbalak and Zil)/Hanan Ahmed Nasser, Ahmed Hanan Nasser, Hussein Hanan Nasser, Hussein Ahmed Abdo 4. Lo Delal Sherin Hayat/Said Hassan, Mohammed Ali Te'djo 5. Sar Hawa/Said Youssef