現代ファドの進化を体現する歌手リナ(Lina)が、スペイン・メノルカ島出身のピアニスト/作曲家マルコ・メスキーダ(Marco Mezquida)と共に制作した最新作『オ・ファド』が登場します。ふたりは2023年に同名のEPで共演をスタートさせ、本作でついにフルアルバムとして結実。伝統ファドの名曲や、ポルトガルを代表する詩人フロルベラ・エスパンカやミゲル・トルガらの詩による新曲、さらにスペイン語曲までを取り込み、声とピアノが溶け合う親密な空間で、伴奏は全編ピアノのみとし、ファドを新たな色彩と静寂の中に蘇らせています。 クラシック声楽を背景に持つリナは、リスボンのカーザ・ド・ファドで研鑽を積み、伝統にとらわれない自由な表現を追求。2020年にはラウル・レフリーとの共作『リナ_ラウル・レフリー』(ライス INR-8044)で国際的に注目を集め、2024年には英国人音楽家ジャスティン・アダムズとの『ファド・カモンイス』(ライス GLR-31013)を発表し、ポルトガルの詩人カモンイスの言葉に旋律を与えるという斬新な試みに挑みました。そして2025年7月には、北アイルランド出身のジュールズ・マクスウェルとの共作『母なる大地』(ライス NWR-32030)をリリース。ファドとケルトの伝統、電子音響を融合させた特別アルバムも大きな話題を呼んだばかりです。 一方のマルコ・メスキーダは、1987年メノルカ島生まれ。バルセロナのカタルーニャ高等音楽院(ESMUC)で学び、クラシックからジャズ、即興音楽まで幅広く修得。卒業後は作曲家、即興演奏家、多作なコラボレーターとして国際的に活動し、BMW Welt Jazz Award(ミュンヘン)では審査員賞と聴衆賞をダブル受賞、カタルーニャ音楽アカデミーの「Premis Alicia」を3度受賞(2023年に国際キャリア賞)するなど輝かしい経歴を持ちます。録音はリーダー作・共演作合わせて60作以上に及び、ジャズ界の俊英からクラシック奏者、舞踊家や映像作家まで幅広く共演。豊かなダイナミクスと緻密な構築力、即興の閃きを併せ持つ詩的かつ探究的なピアノは、リナの深く澄んだ歌声を柔らかく包み込み、ときに大胆に導きます。 収録曲には、マリア・テレーザ・デ・ノローニャの名曲「Fado da Defesa」をマルコの意表を突く和声進行と繊細な間合いで再構築したヴァージョンや、アマリア・ロドリゲスの名唱で知られる行進曲「Lisboa dos Manjericos」を軽やかなピアノと豊かなニュアンスで彩った新解釈、民俗的な力強さを湛えた伝承曲「Senhora do Almortao」など、多彩なレパートリが並びます。加えて、詩人ルイス・デ・アンドラーデの詩に作曲家ジョアン・ヴィエイラ(Janita Salomeの筆名)が曲をつけた新曲「Nao e Facil o Amor」も収録されており、深い感情的共鳴をもって演奏されています。録音はカタルーニャ州ラ・ガリーガのモラレダ・スタジオで、全編リナのヴォーカルとマルコ・メスキーダのピアノによるデュオで収録。ライヴ感を重視したセッション形式で、互いの呼吸が伝わる親密で臨場感のある演奏が展開されています。 ファドの伝統を深く知るふたりが、その枠を超えて創り上げた親密で瑞々しい音の対話。『母なる大地』に続くリナの新たな挑戦としても聴き逃せない傑作です。
●日本語解説/帯付き
トラックリスト 1. O Fado 2. Senhora do Almortao 3. Algemas 4. Ausencia em Valsa 5. Alma 6. El rosario de mi Madre 7. Nao e Facil o Amor 8. Fado da Defesa 9. Lisboa dos Mangericos 10. Confidencial 11. Gota d'agua 12. No Volvere