スペインを代表するフラメンコ・ギター奏者チクエロと、イベリア半島を代表するピアニストのひとりマルコ・メスキーダ によるコラボレーション第3作『魂の対話(原題:Del Alma)』。本作は2024年の秋に発表された作品で、2017年の『Conexin』、2019年の『No hay dos sin tres』に続く、両者の対話をさらに深化させた到達点といえる一枚です。 チクエロ(本名:Juan Ignacio Gmez Gorjn)は1968年、バルセロナ近郊コルネリャ・デ・リョブレガット生まれ。ジプシーの家庭に育ち、名匠マノロ・サンルーカルに学んだフラメンコ・ギタリスト/作曲家です。タブラオ・デ・カルメンでの研鑽を経て、エンリケ・モレンテ、カルメン・リナーレス、ホセー・メルセー、ディエゴ・エル・シガーラら名歌手を伴奏。とりわけミゲル・ポベーダ、ドゥケンデとの長年の共演で国際的評価を確立し、日本を含む各地でツアーと録音を重ねてきました。舞踊作品の音楽監督としても重要な役割を担い、フラメンコを舞台芸術として拡張してきた存在でもあります。 一方、1987年生まれのマルコ・メスキーダ(Marco Mezquida)は、スペイン領バレアレス諸島メノルカ島マオー出身。幼少期からクラシックとモダン・ピアノを学び、バルセロナのカタルーニャ高等音楽院(ESMUC)でジャズと即興音楽を本格的に修めました。クラシックの精緻さと即興の閃きを併せ持つ詩的なピアノは高く評価され、ソロ演奏から多彩なプロジェクトまで活動はきわめて旺盛です。ラヴェルやベートーヴェンを素材にした再構築的プロジェクト、舞踊や演劇との協働、そしてシルビア・ペレス・クルスとのデュオなどを通じて国際的評価を確立してきました。本人が「ピアノで歌おうとしている」と語るように、その演奏は旋律的で呼吸に満ち、共演者の表現を深く引き出す力を備えています。また近年では、現代ファドを代表する歌手リナとの共作『オ・ファド』(ライス GLR-32050、2025年)でも注目を集めました。声とピアノのみという大胆な編成で、ファドの核心を守りつつ沈黙や余白を含んだ新たな表現領域を切り開いた同作は、マルコのピアノが「もうひとつの声」として機能する稀有な例として高く評価されています。 そして本作『魂の対話』には全7曲を収録。ジャズ、フラメンコ、クラシック、ポップ、フォルクローレといった要素が自然体で溶け合い、ジャンルを越えた独自の音楽世界が立ち上がります。制作過程では、両者が音源をやり取りしながらアイデアを練り上げ、最終的に共同で楽曲を完成。バルセロナの〈Sol de Sants〉スタジオで録音され、ライヴ感を重視したフレッシュな演奏が捉えられました。 さらに本作では、パーカッショニスト、パコ・デ・モデ(Paco de Mode) が参加。控えめながら的確なリズムが、ギターとピアノの対話に推進力と立体感を与えています。 『魂の対話』は、ふたりの名匠による対話と人生そのものを讃える作品であり、伝統と現代性が自然に溶け合った成熟の記録。マルコ・メスキーダの近年の探究の流れの中に位置づけても、その表現の幅と深度をあらためて示す一枚です。