現在、欧州を中心としたワールド・ミュージック・シーンにおいてもっとも精力的にリリースを展開しているドイツのレーベル“Glitterbeat”がまたまたやってくれました。DIY的楽器を取り入れた独自のアラビック・サイケデリアを展開するエル・カート(El Khat)が同レーベルに移籍し、堂々たる新作を発表しました。
イスラエルの中心都市テル・アヴィヴを拠点に活動を展開するエル・カートは、イエメンにルーツを持つ音楽家エヤル・エル・ワハーブ(Eyal el Wahab)を中心に、ポーランド、イラク、モロッコ出身のメンバーを加えた4人組バンド。ストリートでの大道芸などから独学で音楽を学んだというワハーブは、チェロ奏者としてエルサレム・アンダルシア・オーケストラに参加しプロの音楽家としてのキャリアをスタート。同時に60年代にイエメンで人気を博したフォーク・ミュージックやポップスのレコードのコレクターでもある彼は、そんな音楽のリヴァイヴァイルを目指してこのエル・カートを結成しました。彼らを特徴付けているのが、木片、鍋、空き缶、ワイヤー、ロープといった素材から独自のパーカッションを手作りし、トランペットやエレキギター、シンセといった楽器と共にアンサンブルに加えている点です。そのサウンドはDIY系バンドにありがちなキッチュな雰囲気は全く感じさせず、さながらアラブ系ハイブリッド・ジャズのようなアーティスティックなテイストをたっぷりと醸し出している所に大きな魅力があります。
エル・カートは2019年にデビュー・アルバム“Saadia Jefferson”(Batov Records)を発表、ジャイルス・ピーターソンをはじめ多くの音楽関係者から高い評価を受け、またここ日本でもアンテナの高い音楽ファンの耳にはしっかりと届いていました。そして今回Glitterbeatに移籍し発表したのがこのセカンド作で、これは2010年に亡くなったイエメンの偉大な歌手ファイサル・アラウィ(Faisal Alawi)へのオマージュを込めた内容となりました。もちろん今回も手作り楽器はしっかりと導入。コロナ禍のためバンド・メンバーが揃っての録音は出来なかったようですが、リモートながらその壮大なアンサンブルや独特のアラビック・グルーヴからは、まるで一堂に会して作られたような一体感が感じられます。
まさにこの春最高の衝撃を与えてくれるアラビック・サイケデリック・サウンド!これを聴かずに2022年のワールド・ミュージックは語れません!
トラックリスト
01. Ma'afan
02. Djaja
03. La Sama
04. Muftaha
05. Ala Al Ma
06. Alba
07. El Khat
08. Naksah al Ras .1
09. Naksah al Ras .2
10. Leilat Al Henna
11. Said Min A'sawad
12. Albat Alawi Op.99