〈ファドの女王〉アマリア・ロドリゲス(1920-99)が晩年の1987年4月、リスボンの名門劇場〈コリゼウ・ドス・レクレイオス〉で行ったライヴ公演を完全収録した2枚組。本作には、かつてアナログ盤などで一部のみ紹介されていた1987年ライヴの音源を、全37曲・2枚組として完全収録。2018年に解説無しのサンビーニャ・インポート盤として一度登場しましたが、今回はライス・レコードより、解説を付けて再リリースすることにいたしました。 この公演はアマリアにとって、リスボンでのわずか二度目の単独公演。彼女は1950年代から欧米や南米、アジア諸国を舞台に活動し、国際的スターとして知られていながら、地元ポルトガルでは長らく正当な芸術的評価を受けることができませんでした。1974年のカーネーション革命後は、その政治的背景をめぐる誤解から、さらに長い沈黙を強いられたのです。そんな彼女が67歳にして地元の大劇場で声を響かせた本公演は、まさに名誉回復と芸術の勝利を刻んだ歴史的瞬間でした。 収録されているのは、彼女の代名詞ともいえる「Barco Negro(暗いはしけ)」「Fado do Destino(運命)」「Fim do Amor(愛の終わり)」といった名曲の数々に加え、本公演で初披露されたとされるアレン・ウルマン作曲によるスペイン語曲「Soledad」、自身のライヴで初めて〈マルシャ〉形式の行進曲を導入した「Arraial de Santo Antnio」、未発表曲「Prece」「Obsesso」など。晩年に入ってもなお新たなレパートリへ果敢に挑戦しつづけたアマリアの意欲がひしひしと伝わってきます。 この時期のアマリアの歌声は、すでに全盛期の煌びやかさや力強さとは異なりますが、そのぶん深い陰影と緊張感を宿し、言葉やリズムに対する繊細な感覚、観客との一体感といった“語り手”としての真価が際立っています。まさに「声の芸術」が円熟を極めた瞬間と言えるでしょう。 録音はポルトガル録音界の重鎮として知られたValentim de Carvalho専属エンジニア、ウーゴ・リベイロによって、マルチトラックで精緻に収録され、長らくレーベル倉庫に保管されていたもの。本2枚組では、初めてそのオリジナル・テープを使用し、全曲が完全な形で収められました。ライヴならではの臨場感と、観客の熱狂がそのままパッケージされた本作は、もはや音楽作品というより「ドキュメンタリー」そのもの。ファドの歴史を証言する記録としても貴重です。 声を通して人生そのものを表現し続けたアマリア・ロドリゲス。その晩年の歌が放つ静謐な迫力は、もはやジャンルや国境を超えた“人類の遺産”と呼ぶべきものです。今こそ、その響きにもう一度、静かに耳を澄ませてみてはいかがでしょうか。
●日本語解説/帯付き
トラックリスト CD 1 I parte 1 Variacoes em Mi menor 2 Fadinho Serrano 3 Andorinha 4 Lavava no Rio Lavava 5 Grito 6 Novo Fado da Severa 7 Prece 8 Ai Maria 9 Soledad 10 Chora Mariquinhas Chora 11 Gaivota 12 Arraial de Santo Antonio 13 La Vai Lisboa
II parte 14 Don Solidon 15 Obsessao 16 Maria Lisboa 17 Povo que Lavas no Rio 18 Rosinha da Serra d’ Arga 19 Quando Eu Era Pequenina 20 Solido dos Bolieiros (O Timpanas)
CD 2 1 Barco Negro 2 Lagrima 3 Ha Festa na Mouraria 4 Fallaste Corazon 5 Pot- pourri (Fado do Ciume, Fado Malhoa, Ai Mouraria, Que Deus me Perdoe, O Fado de Cada Um, Foi Deus) 6 Malhao 7 Fado Amalia 8 El Porompompero
excertos do segundo dia 9 Estranha Forma de Vida 10 Lavava no Rio Lavava 11 Gaivota 12 Maria Lisboa 13 Povo que Lavas no Rio 14 Solido dos Bolieiros (O Timpanas) 15 Lagrima 16 Malhao 17 Quando Eu Era Pequenina