1980年に発表された『私の中のファド』は、アマリア・ロドリゲス(1920-99)が全曲の作詞を手がけた初めてのアルバムでした。もちろん彼女はそれまでにも作詞を手がけていましたが、1枚のアルバム全体を自身の詞で構成するのはこの作品が初めてでした。その特別なアルバムが、未発表音源を多数収録した2枚組のスペシャル・エディション(本国では2024年発表)として新たに登場することになりました。 『私の中のファド』が制作された背景には、アマリア自身の人生の転機がありました。1979年、ヨーロッパ最大級のカジノとして知られるカジノ・エストリルでの公演中に体調を崩し、一時活動を休止。その療養期間中に、自身の詞を整理し、ギターラ奏者/作曲家のカルロス・ゴンサルヴェスとジョゼー・フォンテス・ローシャと共に楽曲制作に取り組みました。その結果生まれたのが『私の中のファド』でした。収録された楽曲は、彼女の内面と深く結びついています。オープニングを飾る「Lavava no Rio Lavava(川で洗濯していたあの頃)」では幼少期の記憶を、「Trago Fados nos Sentidos(私の中のファド)」ではファドに対する彼女の哲学を綴っています。60年代の圧倒的な力強さとは異なり、より落ち着いた、内省的な歌声が印象的でした。 そして今回のスペシャル・エディションでは、オリジナル・マスターテープを使用し、当時のLPやCDに施されていた1980年代特有のエコーを排除しました。これにより、よりクリアで親密な音を実現し、彼女の繊細な表現や明瞭なディクションを堪能できる仕上がりとなっています。特に「Tive um Corao Perdi-o(失くしてしまった私の心)」は、ギターラ奏者フォンテス・ローシャとのデュエットが際立ち、これまで埋もれていた細かなニュアンスが鮮明に感じられるようになりました。 さらに多数のボーナス・トラックの中には14曲の未発表音源も収録。アマリア自身の作詞による「Viver estar-se Perdido」「Menina da Saia Verde」「O Carapau e a Sardinha」などの楽曲が、今回初めて公式に発表されました。また、1980年にリスボンで行われた2つのライブ録音も収録されており、病を乗り越えた彼女の復帰公演として特別な意味を持つ音源となっています。CD1にはオリジナル・アルバムに加え、未発表のスタジオ録音を収録。CD2には、1979年12月のリハーサル音源、1980年1月28日のモヌメンタル劇場、2月2日のコリゼウ・ドス・レクレイオスでのライヴ音源が収められています。 アマリア・ロドリゲスのキャリアの中でも特にパーソナルな側面が色濃く反映された本作。彼女が自身の言葉で綴ったファドの世界を、未発表音源とともに再発見できる決定版リイシューとして、アマリア・ファンに強くお勧めいたします。
●日本語解説/帯付き
2025年4月6日発売 AMALIA RODRIGUES / GOSTAVA DE SER QUEM ERA