インディアン・スライドギターの巨匠:デバシシュ・バタチャルヤ(1963- )は、インド古典音楽における斬新な楽器開発と演奏技法の導入、そして伝統とオリジナリティあふれるモダン・アプローチを融合した独自の音楽性〈ヒンドゥスターニー・スライドギター〉というジャンルの確立によって、インド古典音楽に新風を吹き込んだ人物として知られています。インド西ベンガル州の州都:コルカタの音楽一家に生まれた彼は、3歳よりハワイアン・ラップ・スティールギターの演奏を開始し、わずか4歳でラジオ・デビューを果たしました。その後15歳で最初の自作ギター〈チャトランギ〉(6弦ホローネックのラップ・スティールギター。6本の主旋律弦の低音側にドローン弦2本、高音側にリズム弦2本、低音側に共鳴弦12〜14本という24弦3セットで構成。片手に鉄棒、もう片方の手にフィンガーピックを持って演奏する)をデザイン。このオリジナル・スティールギターの演奏/導入によって、インド古典音楽を再定義することとなりました。また、全国音楽コンテストにおいて優勝/総理大臣賞を授与されるなど、数々の栄誉にも輝いていきます。 そんな独創的感性を持つ彼は、古典音楽のみならず現代音楽作品も続々とリリース。2012年には、ジョン・マクラフリン、ジェリー・ダグラス、そして娘のアナンディ・バタチャルヤをフィーチャーした初のグローバル・フュージョン・アルバム『ビヨンド・ザ・ラーガスフィア』(ライス・レコード:WNR-5330)をレコーディング。2017年にはインド/ハワイ音楽の融合アルバム『ハワイ・トゥ・カルカッタ:タウ・モエに捧ぐ』(同:WNR-5426)、2023年にはジョン・マクラフリンのレーベルよりサロードの名手:アリー・アクバル・ハーン生誕100周年を記念して制作した“The Sound of the Soul”をリリースするなど、いずれの作品も非常に高い評価を受けています。また、ソロ以外の活動としては、ジョン・マクラフリン率いるインド・ジャズ=フュージョン・グループ〈リメンバー・シャクティ・バンド〉にも参加し、世界最高峰のタブラ奏者:ザキール・フセインらと共演。多岐にわたるジャンルの音楽愛好家たちから熱い注目を集めました。また、ギター開発については、チャトランギに続き、14弦の〈ガンダルヴィ〉、翌年には娘の名前が付けられたウクレレとマンドリンの融合楽器〈アナンディ〉なども作成しています。 そんな彼の2024年最新作は、7世紀から現代まで続くデバシシュ一家の音楽の伝統、そして1900年代初頭におけるインドの先駆的なレコーディング・アーティストへと捧げられたオマージュ作品となりました。1900年代、シェラック・ディスク(インドなどの亜熱帯地方に広く生息するカイガラムシの分泌する天然樹脂を主原料とする円盤式蓄音機用レコード)の誕生によって、古典的なラーガやポピュラー・ミュージックの演奏録音がインドで開始。同国における最初の有名ミュージシャンたちが台頭し、これが一般大衆の間で一大センセーションを巻き起こしました。本作ではその当時の音楽的特徴やスピリットを再現/再構築。同年秋に同テーマを冠した北米ツアーが行われましたが、こちらも大変好評だったようです。本作においてデバシシュは、先述のチャトランギ、アナンディ、そしてプシュパ・ヴィーナを演奏。プシュパ・ヴィーナはアルバム初お目見えのオリジナル・ギターとなりますが、こちらはサロードとスライド・ギターを融合させた25弦のハイブリッド・ギター。弦楽器ファンの方はこちらも要注目です。メンバーは娘のアナンディ(ヴォーカル/スワマンダル)、弟のスブハシス(タブラ)、そして本作でレコーディング・デビューを果たすこととなった息子のスリヤディプタ(スライド・ギター)で構成。是非ご期待ください。
●日本語解説/帯付き
トラックリスト 1. A Sunrise Serenade (Todi Alaap) 2. The Whispers of Dawn (Todi Slow) 3. A Vibrant Awakening (Todi Fast) 4. A Lover's Gentle Whisper 5. Taansen Ki Malhar 6. Tempest of The Monsoon Dance 7. The Quietude of Inner Peace (Jinjhoti Aalap) 8. My Eyes Have Fallen Upon You 9. A Divine Dance In Mixolydian 10. The Lonely Heart